Letter No.33 山娘が牙を剥く
携帯の目覚まし時計の音にビクッとした
同じ棟の別の部屋で寝ている
妻の友人たちを起こしてはならない
朝5時半に鳴らしてしまったことに
大変申し訳なく思いながら
急いで画面を開いてアラームを止めた
かけ布団をえいっと蹴り上げ
頭をボリボリ掻きながら
ようやく我に戻った
そうだった
今朝はぶぶの世話はしなくても良のだ
昨日、思い切って初めてぶぶを妻の実家に預け
妻の友人たちと台北郊外の陽明山の麓にある
「アメリカンビレッジ」という避暑地に
1泊の小旅行にやってきたのだ
朝鮮戦争時に米軍が台湾に駐留した際
台湾政府が米軍の宿舎をこの地に建設し
その建築群をそっくりそのまま残した
2008年に台北市文化景観に登録されており
まるで米国の郊外にいるような
雰囲気を醸し出している
妻の寝顔を横目に
まだ涼しい朝の冷気を感じながら
音を立てないよう慎重にドアを開けて
外へ飛び出した
朝6時前なのにギラギラ降り注ぐ太陽光
広がる深緑色の芝生と一面の真っ青な空が
綺麗なコントラストをなしている
深呼吸をすると
水蒸気に混じった青々とした芝生の匂いと
山の木々の匂いがする
ぶぶがもう少し大きくなったら
一緒に「夏休み」を思いっきり楽しみたいなぁ
そんなことを想像すると
いつのまにか頭の中で「トトロ」の
イントロ曲「さんぽ」が流れていて
ぼくはズンズンと一人で陽明山の山奥に
入って行ったのである
まだ朝も早いので誰も人はいない
インターネットや電話のアクセスも全くない
まさに「坂道、トンネル、草っ原」が続く
草木もどんどん繁ってきて
太陽の光が少しずつ強くなり
こめかみに汗が流れるのを感じる
鳥と虫の鳴き声がそこらじゅうから聞こえる
下の方からはザーと小川が流れる音がする
陽明山はなかなか味わい深い
「トトロ」と「千と千尋の神隠し」を
足して割ったような不思議な雰囲気が漂う
そんな空気を楽しみながら
結局1時間余り山の中を歩き続けた
かゆい。。。。
短パンでは全くカバーできなかった
剥き出しのすねやふくらはぎは
完全に蚊の餌食となってしまった
1時間の山道闊歩の疲労を感じながら
「ビレッジ」に戻ってきた時
前方の木からフェンスの上に向かって
青っぽい何かがひゅっと降りてきた
嘴は赤っぽく目はギラっとして
尻尾がパサパサと特徴的な鳥だった
「あ、これは見たいと思っていた『台湾山娘』ではないか!」
台湾では「台湾藍鵲(青いカササギ)」とか
「山娘(ヤマムスメ)」として愛されており
台湾の国鳥にもなっている
すかさずポケットから携帯を取り出し写真に収める
そう言えばなんとなく妻の母親が
今は繁殖期で気性が荒いので気をつけてね
みたいなことを言っていたが
なんのことはない
大人しそうにフェンスの上を
チョンチョンと歩いているではないか
しっかり写真に収めようと
少しずつ近づいてみた
可愛くピョコピョコとダンスをしている
ビデオモードに切り替えようとしたら
バサバサバサと大きな音が鳴り響いた
スズメのような小さな鳥が近くにやってきた瞬間
山娘が隠していた牙を剥いたのだ
鋭いくちばしでスズメに噛みつき
ギャーギャーと鳴きながら
スズメを力一杯追い払った
そしてスズメが飛び去った後
羽を大きく広げてフェンスから飛び降り
こちら側にピョンピョンと迫ってきたのである
よく見ると
重たそうなくちばしは
まるで鋭利な包丁のようである
ゾワッと鳥肌が立ったので
高速ステップで後退りし
何かしら飛びかかってきそうな
気配を背中に強く感じながら
一目散にその場からダッシュで逃げた
遠くから改めて見てみると
木の枝の先に鳥の巣のようなものがあった
きっとそれを守っていたのであろう
邪魔してごめんね
と心の中で頭を下げた
山娘という可愛らしい名前がついてるが
「娘」も親となり
可愛い我が子を守るためには
包丁(くちばし)を振りかざして
敵から身を守るのだ
なんだか気迫に完全に押されて
親同士の勝負に完敗したような気分で
そこから宿泊先に向けて
トボトボとビレッジを歩いた
産まれたての子を守る親は必死なのだ
それはそれですごいことだけれども
あれだけ気を張っていれば
周りのものすべてが敵に見えてしまうだろう
確かに自分も最近
ぶぶを守らなきゃと気を張りすぎて
変にストレスを溜め込み
ちょっと自分のやり方に拘ったり
独りよがりになっていた部分があったかもしれない
ぶぶを守るために必死になることは大事だが
もう少しだけ肩の力を抜いて
視野を一層広く(まさに「鳥の眼」を持って)
ぶぶに関わる多くの皆さんの意見を
感謝の気持ちを持って謙虚に取り入れながら
ゆったり気長に育児に取り組んでいこう
そうして
台湾山娘に完敗した経験をバネに
育児に対するポジティブな姿勢を学びながら
朝7時頃にようやく宿舎に戻ってきた
そしたらドアのところに
3歳の娘と遊んでいる母親(妻の友人)がいて
こっちを振り向きながら元気よく
「早安(おはよう)!」と言ってくれた
なんだかちょっと「ビクっ」と警戒して
身構えてしまった
子を持つ母ちゃんというのは
自然と強い覇気を身に纏っているようだ
おしまい。














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