Letter No.5 台風の日
今日は恐ろしい目にあった。
午後、母ちゃんが仕事に出かけた。
関東圏に台風が近づく
大雨の中
母ちゃんは心配そうに扉を明け、
家を出て、オフィスに向かった。
家には父ちゃんと自分だけだ。
最初はまあ良かった。
下手くそなりに一生懸命家事をしてたし、
育児をサボろうとする気配はなかった。
ただ、納豆カレーを食べた後に
自分の顔の近くで臭い息を吹きかけてくるのだけは
やめてほしかった。
事件が発生したのは16時を少し過ぎた頃だった。
「ぶぶとパパの冒険だ」
そうキメ顔で言い放つと、
父ちゃんは自分を抱っこ紐で身体に括り付け
300円のビニール傘をむんずと掴んで
ガチャガチャと扉を開けた
外は風がビュンビュン吹いている
自分の生えたばかりの髪の毛が
右に左にヒュンヒュンなびいている
いや、これは生後3ヶ月を連れて外に出たらあかんやつでしょ
そんなのはお構いなしに
父ちゃんはビニール傘を高々と掲げ(横から雨が入ってくる)
ずんずん、家の敷地の横の坂を下りていく。
「あめあめフレフレ母さんがぁ」
鼻歌なんか歌っている。
なんて不謹慎な人間なんだろうか。
坂を20メートルくらい進んだところで
「あ、あかん」
父ちゃんが急に叫んだ
ばさばさばさぁー
大きな音を立てて、傘のビニール部分が吹き飛んだ
傘がひっくり返ったのではない
身が吹き飛び、骨だけになったのである。
赤ん坊には目に余るおぞましい光景である。
さすがの呑気な父ちゃんも慌てて来た道を引き返す
「ごめんな、ぶぶ、ごめんな、父ちゃんが間違えた」
そう言って
手のひらで僕の頭が濡れないよう
必死でカバーするが
雨は風に乗って横からパシパシ入ってくる
父ちゃんの頬にも雨粒がバシバシあたっている
ざまあみろ。
トントントンっと
3階までの階段を駆け登り
ようやく家に戻ってきた。
あー家の匂いだ。
なんとか生きて帰ってこれた。。。
一方父ちゃんは
僕の頭を拭こうとしてか
タオル、タオルっ
と言って
タオルの入ってない引き出しを漁っている
あーあー。。そこは昨日母ちゃんが整理した引き出しだぞ
怒られるぞ。
流石に外出はもう諦めたと思って振り向いたら
今度はけーたいを取り出して何やら一生懸命やっている
どうやらたくしーを呼ぶらしい
どうしても目的地に行きたいようだ。
こうして20分待って乗り込んだタクシーは
父ちゃんと僕をいつもと違う小児科に連れて行った
父ちゃんはそこで、僕の背中に塗る薬を手に入れたかったようだ。
ようやく目的を果たした父ちゃんは
帰りにたくしーを呼ぼうと、
雨風止まぬ病院の軒先で
またもやけーたいを取り出した。
10分が経過した。
20分
30分
痺れを切らしたとーちゃんが
こっちを見て言った
「ぶぶ、冒険だ」
こうして、新しいビニール傘と、
薬の入った袋を手からぶら下げて
抱っこ紐に入った僕を抱えながら
父ちゃんは雨風の中に飛び出した。
そこから家に着くまでの父ちゃんは
口を横に一文字にしっかり結んで
遠くを見つめながら
一歩一歩安全をしっかりと確かめるように
歩みを進めた。
ヒューヒュー、パラパラパラ
どっしどっしどっし
相変わらず風の声は怖いけれど
雨の音と、父ちゃんの足音が
だんだん心地良くなってきた
僕は台風の真っ只中
ビニール傘の下で
うつらうつらと眠っていた
寝ぼけ眼で見える
父ちゃんの顔は
ちょっとカッコよく見えたが、
鼻毛に白髪が生えているのを見つけて
そうでもないなと思った。
後で母ちゃんが戻ったら
言いつけてやろう。
たっぷり怒られるがいい。
おしまい。



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